
『今、給食費無料化を問い直す…〈連載〉大田原の今を、これからを考える。 ~2021年度3月議会を終えて~ その⑧』の続きです。
2010年の大田原市長選挙において津久井市長がマニフェストに掲げた学校給食費無料化ですが、これまでの経緯は、津久井市長の教育委員会の事務局が2019年に発行している「令和元年度学校給食無料化の概要」という資料に詳しいです。
https://www.city.ohtawara.tochigi.jp/docs/2013082781383/file_contents/R1free-schoollunch.pdf
資料には、学校給食費無償化の経緯、趣旨、今後の課題が載せられています。
制度の開始時からそうだったのですが、市長はじめ市は政策の趣旨をいくつも説明するのですが、そのいくつかは給食費無料化の事業を行うことの政策効果ではないことが入っている気がしています。
給食費を無料化する理由を、後付けで無理に膨らませていないかと思っているのです。
上の資料の、「Ⅰ 学校給食費無料化の趣旨」の一番最初に「1 食育推進の必要性と重要性」と言う項目がでてきます。これが最初に上げられているということは、これが給食費無料化の趣旨のメインなのでしょうか。
この項目の中にはタイトル通り食育推進の必要性と重要性が書かれており、内容には基本的に同意しますが、給食費無料化によってこういった食育が進む、ということが一切書かれていません。
まあ、そうですよね。給食費無料化はお金を払う人が誰かの違いでしかありません。保護者が直接払った給食費か、保護者も含めて払った税金で市が行う事業費か、ということですから、どちらにせよ食育は行えます。
「食育も給食費無料化の趣旨である」という話も、学校給食費無料化が始まった当事から議会などでも説明されていますが、私はまったくピンときておらず、とってつけたような感じがするなぁ…と思い続けています。
趣旨の2、「人材の育成」を一旦飛ばし、趣旨の3にある「地域社会の役割」を見ますと、このような記載があります。
子どもたちに感謝するということを具体例に体験させて学んでもらうことは、たいへん重要であると思います。給食の食材の調達では、多くの動植物の命が原材料となること、調理では調理員のご苦労に、食べるときには「誰か」が費用の負担をしてくれていることに感謝することを学びます。無料化によってこの「誰か」が大田原市民全体であることに気付き、知らない人も支えてくれているという協働の仕組みや大人への尊敬を学習する生きた教材になると思われます。
内容は「これは食育の話なのでは?」とも思いますが、教育委員会は、給食費を通してだとそういう教育がやりやすい、と思っているのかも知れませんね。ですが、そもそもその給食を食べている机や教室、先生や調理員さんの雇用まで、税金によってなされていて、「誰か」が費用の負担をしてくれているからなされているわけですから、こういう説明も私にはピンときません。
「4 地産地消の取り組み」では、給食に使う食材は、地元食材を調達するようにしているという話を書いていますが、お金の出所が保護者の給食費であっても税金であっても、使える食材の費用に違いはありませんので、地産地消の取り組みに差はでません。
これも「なぜここに書いてあるのだろうか?」というくらいの話です。
結局は、趣旨の2、「人材の育成」の最初の4行がこの施策のメインの効果だと思っています。
引用します。
加速する少子化、子どもの貧困など、その対策は急務であり、保護者に求められる教育に関する負担の軽減を図り子育て環境の向上を目指すために、地域社会全体で子育てを支える方策として給食費を無料化することは意義深く、大きな価値のあるものです。
本質はシンプルにここなのではないでしょうか。
給食費は月4000~5000円なので、その額がそのまま、年額5~6万円の子育て世帯の負担軽減になり、大田原市では決算で総額約2億5000万円の事業になります。
あと一つ、触れておきたいのが、「子どもの貧困」のことを理由に給食費無償化を入れるべきだ、という議論についてです。私はこの考え方には疑問を持っています。
子どもの貧困自体は深刻な問題で、様々なアプローチが必要だと思っていますが、生活保護や世帯やそれに準ずる世帯には、就学援助という仕組みの中で学校給食費が全額補助・一部補助されており、所得の線引き等はことなりますが、日本全国どこに行ってもその制度があります。
「貧困な子育て世帯を助ける施策」として給食費無料化を捉えている方がいると思うのですが、実態は逆で、市で大きい財源を使って子育て支援をしているのに、一番貧困なラインの子育て世帯にはプラスの影響がない施策である、ともいえます(少し制度を変えて、小中学生のいる家庭に、給食費と同額を支給する、という仕組みにすれば、そういった世帯にもちゃんと届く施策にはなるかもしれません)。
いろいろと書いてきましたが、学校給食費無料化は、「市の税金を2億5000万円使って、多くの子育て世帯の負担を年5~6万円ほど軽減する施策だ」と捉えるのが正しい実態把握なのではないでしょうか。
『今が大田原の未来を考え、語らなければいけないとき…〈連載〉大田原の今を、これからを考える。 ~2021年度3月議会を終えて~ その⑩』に続きます。