『なぜ子育て世帯に負担を押しつけなければならなかったのか…〈連載〉大田原の今を、これからを考える。 ~2021年度3月議会を終えて~ その⑥』の続きです。
保育園・こども園の保育料は、子どもを預けている人みんな同じ額ではなく、所得によって異なります。
「子育て日本一」等のスローガンを掲げている自治体はいくつもあると思いますが、大田原市も、子ども子育て支援事業計画で「子育て環境日本一を目指して」というキャッチフレーズを使っています。
大田原市は、保育料について、3割の減額を始める前から県内でも上位の補助率で、第2子の保育料を第1子の4分の1にしていました(県内は真岡市と大田原市を除いて2分の1でした)。
また、大田原市の保育料の特徴としては、所得に応じて、15段階に分けられていました。この点はわかりにくいと思うので説明させていただきます。
国は、8段階で保育料の基準を設定し上限を定めているのですが、多くの自治体はその基準とは異なる独自の保育料を設定しています。
3月に星が県内の市の保育料を調べたのですが、7段階~16段階までバラバラです。

なぜ多くの自治体が、国の基準より段階を細かく分けているのかというと、所得が上がった時の負担を少なく抑えるためです。
所得が増えたとき、どこかで保育料があがりますが、極端な話をすると、去年と今年の所得の差が1円であっても、保育料が変わるということは起こるわけです。その時、段階が少ないほど、一気に保育料が上がります。
上の表からも分かるように、かつて大田原は、15段階、およそ3000円刻みで保育料を設定していました。これだと、一段階あがったときの負担は月々3000円、年にしても36000円の負担増で済みます。逆に、4月以降の8段階では、段階は変わりにくいですが、変わったときに月々8000円・10000円、年間96000円・12万円もの負担増になります。このように、所得が上がったり下がったりした時に、急激な変化をもたらさないようにするために段階を細かく分けていたのです。
今回は、保育料の3割減額の廃止と共に、この15段階を8段階にすることになりました。最初私は、3割減額を戻す、といいつつ、8段階に変更することに合わせて保育料を以前より値上げしたのではないかと感じたのですが、一般質問等で確認したところ、15段階から8段階にしたことによる歳入の増は見込んでおらず、同じ水準に戻しただけだ、という回答が返ってきています。15段階を8段階に変更することによっては、財政へのプラスの影響は見込んでいないない、ということです。

幼児教育・保育無償化のタイミングで導入した3割補助の導入(及び副食費補助)は、去年は手をつけられず(ここは昨年の「聖域」であったと考えられます)、一年半後に取りやめとなりました。保育料負担増のお願いするときに、「勇み足だったので、0~2歳の保育料を、幼児教育・保育の無償化以前の保育料に戻します」ということならば、私も一緒になって、理解を求める努力をしたいと思います。しかし、今回は第2子の保育料の増額で無償化以前の水準にすることにし、その上財政に影響がなく、負担が一部の人でさらに増えてしまう制度変更も一緒に行っているのです。本当にその必要があるのならば、理由について説明をしてくれ、と求めたのですが、十分な説明は出てきませんでした。最終的に市長が答弁で語った部分を引用します。
津久井市長/確かに財政が豊かになるならない、この1点だけ見れば星議員がおっしゃるとおりでございます。今回の財政の見直しは聖域なき、全ての事業に対して精査をするというのが大前提でやってきております。その基準になるものは、まず第一には国の基準であり、第2にはというふうに順番をつけていいかどうか分かりませんけれども、周辺自治体、特にこの那須地域、将来統合していこうという考え方があれば、やはりレベルはお互いに合わせていくと、大田原市はすばらしいから大田原市に準じなさいというような高圧的な政策のやり方よりは、やはり近隣市町とのレベルを合わせていく努力は、我々もしていかなければいけない。
津久井市長/またなぜ15段階を8段階にしたのだという那須塩原市、お隣さん、名前を挙げて恐縮ですが、合わせた感じにしか見られないというのは、全くご指摘のとおりだろうと思います。那須塩原市にある程度合わせていくということが、自治体間での保育でのレベルの格差をなくしていくという部分では、やがて統合というふうになったときに、難しい調整を今の段階からきちっとしておくということも、ある意味必要なのかという政治的な配慮もあったことも事実でございます。これは正直に申し上げます。
この答弁には、憤りを感じざるを得ませんでした。
つまり、「今まで長く定着してきた制度を、財政的にプラスにならないのに変える、そしてその理由は、近隣市町村に合わせるため」という説明です。
市長は「難しい調整を今の段階からきちっとしておく」という言葉を使っていますが、これは調整でも何でもなく、大田原が独自に保育の制度を変えているだけのことです。
こういった考え方をして大田原が独自にとってきた政策を他市に合わせて改悪するのであれば、大田原市の自己決定を放棄するという宣言でもあり、基礎自治体の長として、恥ずべき答弁だと感じます。
こういった発言が本心からでているもの、あるいは市の執行部の方針だとしたら、これから大田原の様々な独自制度が那須塩原や近隣市町村に合わせて変えられていくことになりますが、きっとそんな風にしていくつもりはないでしょう。保育料の15→8段階への変更について、論理的な説明ができないために窮して出てしまった弁解に近いものなのだろうとは想像します。
いずれにせよ、何も決まっていない市の統合(合併)を勝手に見越して他市町を忖度し、市民のためにならない制度改正を行うことは今後一切やめていただきたいと強く思います。
『今、給食費無料化を問い直す…〈連載〉大田原の今を、これからを考える。 ~2021年度3月議会を終えて~ その⑧』に続きます。